JAXAで人工流星実験を成功させました

2022年8月30日

2022年8月24日〜8月26日,阿部(新助)研究室の学部生と院生らが中心となり,JAXA宇宙科学研究所(ISAS)相模原キャンパスで人工流星実験を実施して成功させました.

流星アブレーションに伴い後部に伸びる流星尾(wake)は,数値モデルでも再現できていない非平衡プラズマであり,流星頭部(head)と空間的に分解できる室内実験は,流星アブレーションの物理過程を知る上で重要です.しかし,従来の流星アブレーション実験では,アーク加熱風洞を用いた実験が主流であり(e.g., S. Loehle et al., 2017, B. Helber et al., 2019),サンプル供試体を支える支持棒の影響などで,wakeプラズマの挙動に関しては正確な計測が行われていませんでした.

JAXA宇宙科学研究所・超高速衝突実験施設の横型2段式軽ガス銃と複数のプロジェクタイルを用いた我々の流星アブレーション実験は,今年度からJAXAの大学共同利用公募に採択されています.

秒速7kmで射出されて短距離で十分な流星アブレーションを発生させるため,チェンバー内の圧力を3kPa〜300Pa(地球大気の成層圏〜中間圏の圧力に相当)に設定し,卒論・修論で取り組む科学目的に応じて,(1) ポリカーボネイト球(φ7.14mm)を用いた有機物(C2)発光,(2) ステンレス球(φ1.0mm)を用いたFe発光,(3) チェリャビンスク隕石(LL5: φ1.0mm)を用いた隕石火球を模擬した実験を行っています.

分光計測には,航空宇宙工学科や研究室所有の高速度カメラ,紫外線カメラも用いており,可視超高速分光(波長400-800nm,露光1.7μs),可視高速分光(波長400-900nm,露光14.3μs),紫外・可視分光(波長200-1000nm,露光10ms)とカラーの高速度撮像も併用しています.また,アブレーション原子の化学反応(特に酸化反応)が発光強度や発光効率等にどのように影響を及ぼしているのかを明確にするために,標準大気と窒素大気中の比較実験を実施しています.窒素大気中での流星アブレーションは,窒素を主成分にもつ土星の衛星タイタンなどの他の惑星や,原始地球大気の模擬といった応用研究も考えられます.

秒速7kmという速度は,秒速数10kmの天然の流星と比較すると低速ですが,低速である隕石火球や,地球周回から再突入するスペースデブリなどの速度に近く,特定の条件での流星発光を模擬していることになります.データ解析を早急に進め,一部の初期成果は,秋の学会(日本惑星科学会@水戸,宇宙科学技術連合講演会@熊本)で学生たちが早速発表していく計画です.