Author: Masayuki OHKAGE
11月28日から12月2日にかけて、奥山研究室で開発中の人工衛星「てんこう2」のFM熱真空試験を実施しました! 今回は、そもそも熱設計とは何かという話から、てんこう2の熱設計の話、そして今回実施した熱真空試験についてご紹介します。
【熱設計とは?なぜ熱設計が必要なの!?】※1
結論から述べると、宇宙機における熱設計の目的は
「宇宙機システムを構成するすべての機器を全ミッション期間にわたって、機能・性能が正常に発揮できる温度範囲内(許容温度範囲)に収めること」
です。
電子機器には動作可能な温度範囲があり、この範囲を逸脱すると性能が低下し、最悪の場合、故障してしまいます。地上にいる私たちの日常では電子機器の動作温度範囲をあまり気にすることはありません。なぜ宇宙では機器の許容温度範囲に特別注意を払う必要があるのでしょうか?
それは、宇宙空間の熱環境が地上よりはるかに厳しいからです。宇宙空間は-270℃と極寒の環境であるのに対し、太陽と地球の距離では、太陽から多くの熱エネルギー(約1366W/m^2)が降り注いでいます。したがって、宇宙機のどの面に、どの程度さらされるかによって、宇宙機の熱環境は大きく変化することになります。しかし、どのような環境下でもすべての機器が正常に動作しなければ、宇宙機全体として機能を失ってしまうため、熱設計は宇宙機の開発において非常に重要なのです。
【熱の伝わり方】
熱設計を正しく行うためには、熱の流れ方をコントロールする必要がありますが、そのためにはまず、熱の伝わり方を知らなければなりません。中学・高校で習ったと思いますが、熱の移動には次の3種類があります。
- 伝導:物質を通して熱が伝わる
- 対流:流体の移動によって熱が伝わる
- 放射:電磁波によって熱が伝わる
さて、これは余談ですが僕は学食のソースカツ丼が大好きで週一で必ず食べています。昼過ぎの学食が空いている時間に研究室のメンバーで学食に行くので、揚げたてのソースカツ丼が出てくるのですが、猫舌のため熱々のソースカツ丼が食べられません、、、。熱いソースカツ丼が食べられないときにどうするかというと冷めるまでしばらく放置しておきますよね?これは、空気の対流によってソースカツ丼の熱が逃げ、その結果ソースカツ丼が冷めて美味しいソースカツ丼を食べることができます。
このように、地上では空気の対流による熱の移動を使えますが、宇宙空間のような真空環境下では基本的には対流による熱の移動は起こりません。したがって、伝導と放射のみを考えればよいことになります。さて、ここからは数学的に伝導や放射について述べ、熱設計のベースとなる熱平衡方程式について書きたいところですが、本記事はブログということで数式を用いて説明するのはやめておきます(笑)
【熱解析について】
前章で説明した熱移動をモデル化した宇宙機の熱数学モデルをCADで作成し、高速計算が可能なThermal DesktopやPC-SINDAというアプリケーションでモデルを作成し、解析を実行します。
【熱真空試験】
ここまでの熱設計はあくまで解析なので、その熱設計が実機(今回の試験は「FM〈フライトモデル〉」と呼ばれる実際に打ち上げ予定の衛星)に期待通りに反映されているかどうかを確認する必要があります。そのためには、高真空、極低温の宇宙空間を模擬できるスペースチャンバーに宇宙機を入れ、熱真空試験を実施する必要があります。この熱真空試験によって、前述した熱数学モデルの妥当性が確認できます。また、今回の試験では宇宙空間を模擬した環境下で「てんこう2」が正常に動作することを確認するためのシステム試験も行いました。
【参考文献】
※1 大西晃, 宇宙機の熱設計, 名古屋大学出版, 2014