燃料液滴から生じる冷炎ダイナミクスの解明

高級アルカン系燃料では,熱炎発生までに低温酸化反応と呼ばれる連鎖分岐反応が介在し,反応に寄与する分子数や素反応数が多いため,予測に要する計算コストが非常に高くなります.そのため,簡略化された反応モデルで燃料液滴の自発点火現象を予測したいのですが,簡略化されたモデルの検定には微小重力環境で取得される基準データが必要となります.本研究は,観測ロケットで実現される長時間微小重力環境を利用して燃料液滴(正デカン:n-C10H22)の自発点火実験を行い,基準データの取得と液滴の自発点火モデルの構築を目指しています.低温酸化反応の過程で生じる比較的温度の低い(<1000 K)冷炎に着目し,発生時期・発生場所や発生後の挙動を観測しモデル構築に役立てます.冷炎は低温酸化反応によって生じるホルムアルデヒドの励起光として検出可能ですが,近紫外に中心波長(392.4 nm)を持つ発光は微弱であり,光学設計が重要な開発要素となります.また,液滴は1 mmと微小なため,液滴径に比べて十分細い14 μmの線径のSiCファイバを交差させ,交差点に液滴を付着させ保持するという,非常に高い精度での要素開発が要求されます.

本テーマはJAXA-DLRの国際協力協定のもと,九州大学・山口大学・ブレーメン大学,そして日本大学(生産工学部・理工学部)をコアチームとする日独共同プロジェクト「PHOENIX-Ⅱ」として実施してます.実験のキー要素となる液滴支持部は生産工学部,冷炎観察用カメラはブレーメン大学が担当します.本研究室は数値計算による冷炎の予測とモデリングを担当しており,2019年度までに単純な蒸発モデルによる液滴列の自発点火の予測を達成しています.

2020年度は,フライトモデル(FM)の製作に取り組み,ハーネス等の電装系の艤装作業と試験以外の開発を終了しました.また,数値計算では,2019年度までに開発を完了している蒸発モデルによる計算をアップデートさせ,蒸発に関する支配方程式を直接解くことで蒸発過程の模擬が可能となりました.

2021年度~2022年度は,引き続きFMの艤装とエアバスとのI/F調整を実施し,FMが完成しました.FMの設計・組み立ては株式会社IHI検査計測にて実施され,生産工学部(野村先生・菅沼先生)が担当された液滴列の支持機構と,ZARMから提供されたインテンシファイド高速度カメラが組み込まれています.また,解析面では,数値計算により新たに明らかとなった冷炎の振動をモデル化すべく,深層学習を利用した解析手法にも取り組み始めました.冷炎振動は,連鎖分岐反応の活性と再活性を繰り返す力学系を成していると考えられ,その力学系を表す状態変数を特定するため,VAE(Variable Auto-Encoder)を用いた低次元化を試みています.

2023年度は,完成したFMの振動試験を実施しました.ロケットに搭載する機器は,ロケットの打ち上げ時の振動に耐えなければなりません.そのため,予めロケットで想定される振動相当の加振試験を地上で実施し,振動下でも構造に問題無い事や,各要素が正しく機能するかを試験します.振動試験は無事終了し,ロケットの振動に耐えうることが証明されました.また,ロケット側のAvionics Bayが初めてDCU2に接続され,エアバスによって準備された制御ソフトでの機能試験が実施されました.10月には,生産工学部の菅沼先生が渡独し,Avionics,与圧ドームすべてを結合した状態でのシーケンステストが実施されています.

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ロケット実験用FM Droplet array Combustion Unit 2 (DCU2)  *DCU2と名付けられているのは前プロジェクトで使用したDCU(TEXUS#46で打ち上げ)のデザインを踏襲し,今回のプロジェクト用に開発を進めたため.
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数値計算により得られた二液滴(直径1 mmの正デカン)の自発点火時の温度分布(上段)および中間生成物の濃度分布(下段)(雰囲気温度:550 K,雰囲気圧力:1 atm)