山崎研究室では、静岡県立大学の鴨川仁先生,大気環境空間観測研究所(LATMOS),研究機関との連携や地震研究所の研究支援を頂きながら,電磁気学的現象(電離圏電子密度変動)を解明することを目指した6Uの超小型(30cm x 20cm x 10cm)の人工衛星プレリュード(Prelude)の研究開発を行っています.
2011年の東北地方太平洋沖地震や2004年のスマトラ沖地震をはじめとする巨大地震を起因とした災害は,現代社会においても人類の脅威であり,減災は大きな課題です.その中で防災と予知は共に重要な役割を果たします.防災については技術的に大きな進歩を遂げており一般社会への普及が進みつつあるが,いわゆる予知については最先端の地震学では見通しが立っておらず,短期直前予知は少なくとも現時点では極めて困難と言われています(Geller, Nature, 2011).一方,多種多様な観測から,地震に先行しているのではないかという現象は膨大な数が報告されています(Uyeda et al.,Springer,2011).特に1980年代からは,電離圏でも先行的な異常現象が観測されるとの報告が数多くなされるようになってきました.もしこれらの異常と地震との因果関係ないしは相関関係が定量的に評価されれば,短期予知研究に資すると考えています.
電波強度減少の予想(Nemec et al., Geophys. Res. Lett., 2008)や,DEMETER全電場データを用いた研究成果(Kamogawa他,Nanosatellite Symposium, 2016)から,統計的に有意な夜間VLF帯電波強度減少現象の物理機構は,D領域の電子密度増加,言い換えれば下部電離圏の降下であると考えられます.フランスの衛星であるDEMETERのデータを用いた予備研究では,VLF帯波形データと雷放電データ量に制限があったため,本提案と同種の解析は1事例しか得られませんでした.しかし,この1事例である2010年M6.8スマトラ島南部の地震では,下部電離圏電子密度が地震に先行して20-30 %増加していることが定量的に算出されています.地震に先行するとみられる電離圏変動の統計的有意性を示したDEMETER衛星の運用終了後(2004年打ち上げ2010年運用終了)は,数多くの諸外国が同種の衛星を計画しています.
しかし,データの質・量ともに不十分であることから,発生メカニズムの特定にまでは至っていません.低軌道の衛星を用いた先行現象の観測は,先行現象の継続時間が人工衛星の1軌道時間より長く,全球観測が容易であることから,短期間で先行現象の事例数を検知することが可能であり,地上観測では百年単位の時間を必要とする大きな地震との統計的検証を,数年程度で実現することが可能であると期待されています.しかしながら,実現に向けては,多数機の衛星と地上局ネットワークを融合した低コストかつ国際的な衛星―地上局システムを構築する必要です.そこで,地震発生前の連続波形データを取得できる超小型センサを搭載した,将来の常時観測ネットワーク構築を見据えた 6Uサイズ(100mm x 226.3mm x 366.0mm)の超小型人工衛星を開発・運用し,観測データの取得を目指しています.